歯ぐきが1〜2mm下がっても歯は長く見えます
歯ぐきが下がり、歯の根の一部が見える状態を歯肉退縮と呼びます。前歯で1mm、犬歯や小臼歯で2mmほど歯ぐきの位置が変わるだけでも、笑った時の印象は大きく変わります。特に、左右どちらか一方だけが下がる、1本だけ歯が長く見える、歯の根元が黄色っぽく見える場合は、歯肉退縮が関係していることがあります。
治療の第一選択は、見た目だけで決まりません。たとえば、歯周病で骨が失われている方と、歯みがきの圧が強く薄い歯ぐきがすり減っている方では、必要な処置が異なります。根面が露出すると、冷たい水でしみる知覚過敏、根面むし歯、歯ブラシ時の痛み、歯ぐきのさらなる後退が起こることもあります。
当院では、まず「なぜ下がったのか」「これ以上進みやすい環境か」「どこまで審美的な改善が見込めるか」を確認します。歯ぐきの高さだけを見て治療を選ぶと、再び下がる、しみる症状が残る、歯の長さと歯並びの不調和が目立つ、といった結果につながることがあるためです。
原因を4つに分けて診断します
歯肉退縮の背景は、主に4つに整理できます。1つ目は歯周病です。歯を支える骨が吸収すると、歯ぐきも支えを失い、全体的に下がって見えることがあります。2つ目は歯ぐきや骨の薄さです。もともと歯が外側に位置している、矯正後に歯根が骨の外側に近い、薄い歯肉のタイプである場合、局所的に退縮しやすくなります。
3つ目は機械的な刺激です。硬い歯ブラシ、横みがき、強い研磨剤入り歯磨剤、爪や器具で触る癖などが、数年単位で根元を傷つけることがあります。4つ目は噛み合わせです。歯ぎしり、食いしばり、奥歯の支持不足、被せ物の高さの不調和により、特定の歯に力が集中すると歯ぐきや周囲組織に影響する場合があります。
診断では、①歯周ポケット測定、②出血・動揺度の確認、③デンタルX線や必要に応じたCT、④口腔内写真、⑤噛み合わせの記録、⑥過去の矯正・補綴治療の確認、という手順で評価します。歯ぐきが下がった量だけでなく、歯間部の骨や歯ぐきがどれだけ残っているかが、根面被覆の見込みを左右します。
治療選択肢は「止める」「覆う」「設計し直す」の3段階です
軽度で進行性が低い場合は、まず退縮を止める治療を行います。具体的には、歯みがき圧の調整、歯ブラシ・歯磨剤の変更、歯石除去、炎症のコントロール、知覚過敏処置、ナイトガードによる力の管理などです。たとえば、根元がしみるものの歯周ポケットが2〜3mm程度で炎症が少ない方では、外科処置の前に生活習慣と清掃方法を整えることで経過を見ることがあります。
見た目や知覚過敏の改善を目的に、露出した根面を覆う選択肢もあります。代表的なのが歯周形成外科です。上あごの内側などから結合組織を採取し、下がった歯ぐきの部位へ移植する方法、または周囲の歯ぐきを移動させる方法を組み合わせます。適応が合えば、歯ぐきの厚みを増し、根面露出の改善を目指します。ただし、歯間部の骨が大きく失われている場合や、喫煙、清掃不良、強い咬合力が残る場合は、改善量に限界があります。
歯の位置や被せ物、咬合平面まで関係している場合は、口腔全体を設計し直す段階に入ります。矯正治療で歯根を骨の中により安定した位置へ移動する、古い補綴物の形態を整える、奥歯の支持を回復する、インプラントや再生療法を含めて咬合を再構築するなど、複数の選択肢を検討します。RESTLUXE DENTARIAで行う包括的な歯周形成外科・再生医療を含む治療は、自由診療(保険適用外)として計画します。
歯ぐきを戻せる範囲には限界があります
歯ぐきの治療で大切なのは、期待できる範囲と限界を事前に共有することです。歯肉退縮が1〜3mm程度で、歯間部の骨や歯ぐきが保たれている場合は、根面被覆を検討しやすい傾向があります。一方で、歯周病によって歯と歯の間の骨が失われ、黒い三角形のすき間がある場合、歯ぐきの高さを完全に元通りにすることは難しい場合があります。
外科処置には、術後の腫れ、痛み、出血、内出血、感染、移植片の生着不良、色調や質感の差、知覚過敏の残存、再退縮などのリスクがあります。結合組織を採取する場合は、採取部位にも痛みや違和感が生じることがあります。また、喫煙、糖尿病のコントロール不良、強い歯ぎしり、清掃状態の不安定さは治癒に影響することがあります。
そのため当院では、治療前に写真や画像を用いて、改善を目指す部位、難しい部位、段階的に行う理由を説明します。1回の外科処置で判断するのではなく、初期治療、再評価、外科、補綴または矯正、メンテナンスという流れの中で、歯ぐきと歯、骨、噛み合わせを同時に見ていきます。
全顎的な口腔再設計として考える場合の流れ
難症例では、下がった歯ぐきは“結果”であり、原因は口腔全体にあることが少なくありません。たとえば、奥歯を複数失って前歯に負担が集中している方、過去の被せ物の境目が歯ぐきに合わなくなっている方、矯正後に歯肉退縮が目立つようになった方では、局所だけを整えても長期的な安定が得にくいことがあります。
当院の診療では、初診時に現在の悩みを整理し、次に資料採得を行います。口腔内写真、X線・CT、歯周検査、咬合診査、必要に応じたデジタルシミュレーションを組み合わせ、3つの視点で計画します。第一に炎症を減らすこと、第二に力の集中を分散すること、第三に歯ぐきや補綴のラインを顔貌・口唇・笑顔との調和の中で整えることです。
治療後は、1〜3か月ごとのメンテナンスを基本に、歯みがき圧、噛み合わせ、ナイトガードの状態、歯ぐきの厚みや退縮の変化を確認します。歯ぐきが下がり歯が長く見える時、必要なのは急いで処置を決めることではなく、失われた組織と残された条件を静かに読み解くことです。私たちは、見た目の回復と機能の安定を同じ診断線上に置き、その方にふさわしい治療計画を検討します。