サイナスリフトとは、上顎奥歯の骨量を補う外科処置です
結論から申し上げると、サイナスリフトとは、上顎の奥歯の上方にある上顎洞の粘膜を慎重に持ち上げ、その下に骨補填材などを入れて、インプラントを支えるための骨の高さを確保する処置です。
上顎の小臼歯・大臼歯部では、歯を失ったあとに歯槽骨が吸収し、さらに上顎洞が下方へ広がることがあります。その結果、インプラントを埋入するために必要な骨の高さが、たとえば4〜5mm未満になる症例もあります。一般的なインプラント体の長さは8〜11mm程度が選択されることも多いため、既存骨だけでは安全な設計が難しい場合があります。
このようなときに、インプラントを短くする、傾斜埋入を検討する、ブリッジや義歯を含めて再設計する、といった複数の選択肢があります。その中で、上顎洞側に骨造成の余地をつくる方法がサイナスリフトです。
インプラント治療およびサイナスリフトは原則として自由診療(保険適用外)です。当院では、単に1本の歯を補う処置としてではなく、噛み合わせ、残存歯、歯周組織、顔貌との調和を含めた口腔全体の設計の中で適応を判断します。
術式の流れ:CT診断から治癒期間までの5段階
サイナスリフトは、事前診断の精度が結果に大きく関わる処置です。典型的には、次の5段階で進みます。
1. CTで骨の高さ・幅・上顎洞の形を確認
まず歯科用CTで、残っている骨の高さ、骨幅、上顎洞底の形、隔壁と呼ばれる骨の仕切り、粘膜の肥厚、炎症所見を確認します。たとえば、既存骨が2〜3mm程度しかない場合と、6〜7mm残っている場合では、術式やインプラントを同時に入れるかどうかの判断が変わります。
2. 歯ぐきの側方から小さな窓をつくる
一般にサイナスリフトと呼ばれる方法では、上顎の頬側の骨に小さな窓を形成します。そこから上顎洞粘膜を破らないように剥離し、上方へ持ち上げます。粘膜は薄い場合があり、0.3〜0.8mm程度とされることもあるため、強い力ではなく、器具の角度と視野が重要になります。
3. 骨補填材を入れ、空間を維持する
持ち上げた粘膜の下に骨補填材を填入し、インプラントを支えるための空間をつくります。症例により、自家骨、人工骨、異種骨、またはそれらの組み合わせを検討します。骨補填材は入れればすぐに成熟骨になるわけではなく、時間をかけて体になじみ、骨様組織へ置き換わっていく過程を待ちます。
4. インプラントを同時または後日埋入
既存骨に初期固定が得られると判断できる場合は、サイナスリフトと同時にインプラントを埋入することがあります。一方、骨の高さが少ない場合や感染リスクを抑えたい場合は、まず骨造成を行い、約6〜9か月の治癒期間を置いてからインプラントを計画することがあります。
5. 治癒を待ち、上部構造へ進む
術後はCTやレントゲン、口腔内所見を確認しながら治癒を待ちます。腫れは数日から1週間程度で落ち着くことが多いものの、内出血、鼻周囲の違和感、軽い鼻出血がみられることもあります。治癒の速度には個人差があり、全身状態や喫煙習慣、歯周病の状態も影響します。
受ける前に確認したい4つの項目
サイナスリフトを検討する前に、少なくとも次の4点を確認することが大切です。
1つ目は、上顎洞そのものの状態です。慢性副鼻腔炎、鼻づまり、過去の副鼻腔手術歴、上顎洞粘膜の肥厚がある場合、歯科単独で進めるよりも耳鼻咽喉科的な評価が望ましいことがあります。
2つ目は、口腔内の感染源です。重度歯周病、根尖病変、清掃不良が残ったまま骨造成を行うと、感染のリスクが高まります。たとえば隣在歯の根の先に炎症がある場合、先に根管治療や抜歯を検討することがあります。
3つ目は、全身状態と服薬です。糖尿病の血糖管理、骨粗しょう症治療薬、抗凝固薬、免疫抑制薬、喫煙習慣は外科処置の治癒に関わります。服薬を自己判断で中断することは避け、主治医との連携が必要です。
4つ目は、治療期間への理解です。サイナスリフトを伴う場合、診断から仮歯、骨造成、インプラント埋入、上部構造装着まで、半年から1年以上を見込むことがあります。短期間で歯を入れることだけを優先すると、長期的な安定性とのバランスを損なう可能性があります。
リスク・限界を理解したうえで、全体設計として判断します
サイナスリフトには、上顎奥歯のインプラント治療の可能性を広げる面があります。一方で、外科処置である以上、リスクや限界があります。
代表的なリスクには、上顎洞粘膜の穿孔、術後感染、腫れ、痛み、出血、内出血、鼻出血、副鼻腔炎の悪化、骨補填材の感染や吸収、インプラントの初期固定不良、治癒期間の延長などがあります。粘膜穿孔が起きた場合、処置を継続できることもありますが、状況によっては中止し、治癒を待って再計画することがあります。
また、骨を造成したからといって、すべての症例で希望通りの位置・本数・時期にインプラントが可能になるとは限りません。強い歯ぎしり、広範な骨欠損、審美領域との連続性、全顎的な咬合崩壊がある場合、上顎洞だけでなく、下顎位、前歯のガイド、顎関節、補綴設計まで含めて見直します。
RESTLUXE DENTARIAでは、サイナスリフトを単独の手技として切り離さず、口腔全体を再設計する過程のひとつとして捉えています。失ったものを取り戻す治療ほど、急がず、正確に条件を読み、必要な段階を省かないことが重要です。
まずはCT診断と口腔内診査により、サイナスリフトが本当に必要か、別の設計が適しているかを静かに見極めることから始まります。